*- 冷たい雨 その3 -*
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  着る服も決まらずに、とうとうその当日になってしまった。私っていつ

もそう。決断力が無いって言うか、迷い始めたらキリが無いって判ってい

る癖に決められない。だからきっと、吉田さんのあの強引さが気持ち良か

ったのかも知れない。結局寒がりの私は、茶色のコールテンのズボンに白

のセーターとこげ茶の長いコートを着て出掛けることにした。待ち合わせ

の病院の自動ドアに映った姿は、自分で見ても色気なんてとてもじゃない

けど一切無く味気ないように見えた。やせ我慢でもスカートにすれば良か

った・・・少し後悔をしつつ横を向いたら、吉田さんが側に立っていた。

「あれ?自動ドアには映って無かったよ?」キョトンとした私を見て、彼

はまたあの人懐っこい笑顔で「そりゃそうだよ〜、なんてったって僕はお

化けなんだから。アハハ、さ、行こう!」彼はいきなり私の腕をつかんで

また強引に誘った。駅から山へ向かう電車に乗り、5つ目の駅で降りた。

スタジアムでは、もう沢山の人が列を成していたが、彼はチケットを持っ

ているからと、別の予約席専用へと進んだ。「ねぇ、試合って、なんの試

合?」「あれ〜〜聞いてなかったのか?アメフトだよ、ア・メ・フ・ト」

「ごめんなさい。覚えてなかったのよ、だってあの時・・・」「そんな事

はいいから、席に座って座って!僕はコーラーを買ってくるから。中本さ

んもコーラーで良かったかな?」「え?あ、はい・・・」彼は大急ぎで走

り出して、コーラーを二つと、ポテトチップスを買って帰ってきた。「こ

の寒いのにコーラー?」私は言いたかったけど、言えなかった。別に迷っ

たワケじゃない。彼の強引さを楽しんでいたのかも知れない。

 アメフトの試合は、ルールが全く判らず、隣に座っている彼の発する声

で、点が入ったんだとか、点を入れられたんだと判る程度だったが、汗を

かかんばかりに応援している彼を見ていると、なんだか幸せ気分になって

試合の後半では私も、大きくは無いけれど声を出して応援していた。寒い

だろうと思ってズボンにしたけど、応援をしていたら身体が熱くなってき

て、やっぱりスカートにすれば良かったと、また後悔をした。知らないス

ポーツなのに、こんなに楽しめるんだ・・・。意外な楽しみを貰った。


              
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04.01/16 作:P-SAPHIRE

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