*- 冷たい雨 その4 -*
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   彼は大学の3回生で、病院からすぐのアパートで下宿している。親の仕

送りではなかなか今のご時世、一人暮らしも大変らしく、ハンバーガーシ

ョップの閉店後の掃除と時々引越しのアルバイトをしていると言う。そん

な彼からは、別に付き合おうとは言われなかったけれど、それでも毎日の

電話と月に数回街をぶらぶらと一緒に歩いたりして、結構楽しく過ごして

いた。でも、二人ともお金が無かったので、いつしか彼の下宿に行って音

楽を聞いたり、ビデオを見たりして過ごす事が多くなり、あまり外へ行か

なくなってしまった。カップラーメンとお握り・・・昼食はそんな簡単な

物だったけど、それでも二人で食べたら美味しく感じられたりして、別段

何もしなくても充分幸せだった。私も大学生になり、時間がなかなか取れ

なくなっていったけど、それでも毎日の電話は欠かさず、お互い少しの時

間でも話が出来れば嬉しかった。


 春の桜もとっくに散ってしまい、そろそろ半袖が恋しくなる頃、彼から

の電話が途切れがちになってきた。「今までが普通じゃなかったのよ。こ

れが普通の付き合いなのよね。これに慣れなきゃ駄目だよね・・・」そう

自分に言い聞かせてはみるけど、気分がはっきりしない。「彼にも友達と

の付き合いだってあるんだし・・・」色々頭で考えてしまう。そのもやも

やを抱いている自分がとても嫌だった。いっそのこと、彼の下宿へ行って

みようか。でもそれでは・・・。でもそれでは、自分が寂しさに負けてし

まっているような、敗北を認めるような、なんともやりきれない気持ちに

なってしまうだろう。そう思う一方で、勝ち負けじゃないだろう、もしか

したら病気になっているのかも知れないし、行けば彼だって喜んでくれる

よと、胸の中で声がする。やっぱり決断力には欠けるんだ、私って・・・

。電話なら良いわよね、そう、電話してみよう。。。

 「はい、吉田です」「あ、中本です。こんにちは。しばらくぶりだけど

元気にしてる?」「え?あ、元気だけど。君はどう?」「私?うん、大学

にやっと慣れて、元気が出て来たわ。」「そう、良かった・・・悪いんだ

けど、今友達が来ててさぁ。また連絡するから、ごめんね。」「あ、ごめ

んなさい。お友達が来てるって知らなかったから・・・じゃぁまた」「あ

ぁ・・・じゃ」受話器を置いた手が冷たい。彼の声が聞けたからいいじゃ

ない。元気だって言うんだし、別に気にすること無いって・・・そう自分

に言い聞かせたけど、なんだか落ち着かない。そこに私の知らない彼の世

界があって、踏み込んではいけない結界のような物を感じてしまい、と

ても辛く悲しく思えた。彼には彼の世界があるのよ。あなたにはあなたの

世界があるようにね・・・。そんな冷たい声が胸の中で木霊していた。



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04.01/16 作:P-SAPHIRE

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