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*- 小説:地獄長屋に陽がのぼる -*
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その7:〜ドロップの思い出〜

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 「おばちゃ〜ん、これなんぼや?」子供の元気な声が響く。
 
 「はいはい、ドロップか?100円やで」

 地獄長屋の坂を上がったすぐ脇にある駄菓子屋には、毎日子供達がお

やつを買いに来よる。遠足の前の日ともなると、そりゃ大賑わいや。一

時期「衛生に悪い」とかって、母親達は行かせたがらなかったが、ここ

数年のレトロブームとかで、結構私らが懐かしいお菓子が脚光を浴びる

。大小さまざまな飴をタコ糸で結び<当てもん>と称して、上の糸を引

くと、結ばれている飴が上がってくる。大きい三角飴が上がってきたら

<当り!!>ってなもんで、私ら子供じぶんからある素朴な物やら、き

び団子、寒天でジュースを固めたようなペロペロやら、狭い店内に所狭

しと色々並んでいる。私はもうおっさんになったから、駄菓子は買わへ

んけど、時々タバコを買いに立ち寄る。その時に出くわす子供達の顔は

いつもキラキラしてて嬉しそうや。昔も今も、ちーーっとも変わらへん

のが、これまた嬉しいな。

 「おばちゃん、<わかば>おくれ」

 「はいはい、はっちゃん、ご機嫌さん。いつもの5個でええね」

言わんでも、おばちゃんはしっかり覚えてくれてる。自動販売機ってな

もんは、どうも味気ない感じがして私は好きになれん。年寄り臭いって

言われそうやが、言葉を交わす人間味が好きや。

 「おっさん、あんましタバコ吸うなよ。長生きせんで」

何時の間にか足元にぽぽにゃんが来とった。

 「わしの年になって、今更長生きなんかしとうないっちゅーねん」

 「ま〜たそんな事言うやろ。ほんま、可愛げのないやっちゃ」

 「猫に言われたないわ!」

 「おばちゃん、棒状のドロップかぁ、珍しいな〜」

店の一角に置かれた棒状に包まれたドロップに目が釘付けになった。

 「せやろ。最近は缶に入ったのが多いんやけど、まだあるで」

棒状に包まれているドロップ・・・これには思い出がある・・・。

 終戦後の混乱期、私は些細な事で家を一時期飛び出して一人暮らし

をしながら色々な仕事を転々としていた事がある。四畳半のアパート

に一人暮らしていたんやが、職場の仲間にダマされて、お金を盗られ

た事があって・・・。今日食べるご飯さえ買えん状態やった。どうし

ようかな〜と、途方に暮れている時、道に棒状のドロップが落ちてた

。「助かった!ちょっとは腹の足しになるやろ」そう思って落ちてい

たドロップを拾い上げてよくよく見たら、それはドロップやのうて、

100円玉を包んだ物やった。悪いとは知りつつも、今日食べる物も

買えん状態やったから、そのまま失敬させてもろた。

 せやけど、お米を買えるだけのお金やない。そこでや、私は無い知恵

を絞って<小麦粉>を買ったんや。幸にも味噌や醤油のような調味料は

持ってたさかいに、小麦粉を買ってそれを、団子汁やうどん、道端に生

えてる雑草を入れた天ぷらやらして食いつないだ。あの時は貧乏やった

なぁ。毎日毎日生きて行くのが精一杯の時代。この時ほど神様仏様に感

謝した事はないと思う。それぐらい嬉しかった。こうして今生きてるん

やからな。あ、違う。生きてるんちゃうなぁ、生かしてもろてんねんや

。ぽぽにゃんに「今更長生きなんかしとうないっちゅーねん」なんて言

うてバチが当るかも知れへんな・・・。

 「どや、ぽぽにゃん、スルメでも食べへんか?」

 「おお!!今日は雨になるんちゃうか?せやけど嬉しいな、食べるわ」

 「おばちゃん、そこのスルメ1本やってんか」

 「へ?猫にやるんかいな。ほんならそのままでええな。はいよ」

ぽぽにゃんは美味そうに食べよる。猫にスルメを食べさせたら腰が立た

んようになるんちゃうかと心配したけど、まぁ、普通の猫やないし。

 「おばちゃん、おおきにぃ。ほな、帰るわ」

 「こちらこそ、おおきにやで」

今日はなんか懐かしい思い出が蘇って来て、ほっこりさせてもろたわ。

やっぱり自動販売機で買うよりええな。




  平成16年9月30日 作:P-SAPHIRE

☆この小説はフィクションです。登場人物その他はPの空想の世界。
くれぐれもPの日常と勘違いしないで下さいね。まぁ、日常とそんなに違いはおまへんけど☆

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