*- Happy X’mas -*
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 And so this is X'mas
さぁ今日はクリスマス
And what have we done?
私達は何をしてきただろう?
Another year over
また一年が終って
And a new one just begun
新しい年が始まる
And so happy X'mas
だから ハッピー・クリスマス
We hope you have fun
楽しんでよ
The near and the dear one
近くにいる人、愛しい人
The old and the young
老いも若きも
by JohnLennon&Yoko Ono
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  灰色の空を毎日眺めつつ、満員電車に揺られ、色とりどりに彩

られる街に出る。仕事に少し疲れを感じる年になって来ているん

だろうかと、ふと思ってみたりする。それでも人の流れは待って

はくれず、押し流されるように改札を出て、無機質なビルに飲み

込まれる。「おはようございます」「おはよう」毎日繰り返され

るお決まりの挨拶もそこそこに自分の机に向うと、はぁ〜と溜息

が漏れ出てしまって、あえてやる気を起こさせる為に、気付薬の

ブラックコーヒーを入れようと席を立つと、後輩が後で立ってい

た。「はい、コーヒーをどうぞ。遥さん、なんだかお疲れ気味の

ようだから」ふふふと愛想笑いにもなっていない笑顔で差し出さ

れたコーヒーを受け取る。「今日の会議...長引きそうですよ、

遥さん、大丈夫ですか?」「君が心配する事じゃないわよ。私は

いつだってベスト!上手く渡り合って来るわよ、任せておいて」

そう言いつつも、頭は別の事を考えている...。

 キャリアウーマンと言う呼び名、私は好きじゃない。好きで独

身を通してる訳じゃないし、この仕事が私に合っているかと聞か

れれば即答出来ない自分がここにいる。別段趣味もないから、今

の仕事を続けている訳で、仕事が趣味だなんて言いたくないし。

 「遥さん、オプタリカさんからお電話ですよ」「あ、ありがと

う...はい、内山です、おはようございます。」内山遥は私の名

前。今更ながら親は上手く名付けたな〜って思うわ。いつも遥彼

方ばかり見てるから現実が見えてないのよね、きっと。

「あ、遥・・・おはよ。いつもながら君って人は朝に弱いみたい

だね。朝1の電話は愛想が悪いぞ。」「あ、そうですか、その懸

案は長年の悩み所でしてね・・・」「あはは、そう言う言い回し

は本当に君らしいや」「長嶺さん、今日は何か?」長嶺信一は取

引先の社長。彼と付き合い出してもう3年。お決まりの不倫って

言う事になるのだろうが、あまり深く考えた事がない。仕事に疲

れた時...そんな感じでもない。ただなんとなく、気がつけばそ

うなっていたと言うのが本当の話。燃え上がるような恋じゃなく

まるで囲炉裏の置き火のような、ホッとするような温かさを持つ

彼に抱かれている時、「あ〜、生きているんだな〜」って思える

そんな関係。彼の奥様に後ろめたさがない訳じゃないけれど、彼

の家庭を壊すなんて考えた事もないから、安易に関係を続けてい

る。「遥、今夜どう?素敵なお店を見つけたんだ。君の好きなイ

タリアン。だから、ね。」「解りました、ではまたお伺い致しま

すので宜しくお願い致します」余計な話しは出来ない。ここは会

社。誰が聞いているか解ったもんじゃないから。受話器を置いた

時に微かになる電話の切れる音。彼との繋がりが切れるような気

がして、この音が好きになれない。

 後輩が言ったように午後からの会議は長引き、もうクタクタ

状態になって、戻った席でしばし呆然となっていた。「遥さん、

僕が言った通りでしょ。今日の会議は長引くって」「君はいつか

ら占い師になったの?でも、当ってたわ、うちの上司ったらまっ

たく...女の癖にって顔に書いてるやつばっかりでうんざりだわ」

「あはは、遥さんの腕はみんな認めてますよ。気の回し過ぎじゃ

ないですか?」「でも、なんだかね〜」「はい、コーヒーを飲ん

で気持ちを落ち着かせて下さいな」「あらら、君は占い師だけじ

ゃなく、ウェイターさんまでするんだ...」「あ〜、それはご挨

拶ですね〜。僕は遥さんが疲れているだろうって思っただけなの

に...」「ごめん、ごめん。気を悪くしたの?そんな意味で言っ

たんじゃないのよ。グッドタイミングでコーヒーが出てくるから

喜んでるのよ、あ・り・が・と」少し温めのコーヒーは、今の私

にはありがたいと感じつつ、会議で熱弁を振るってしまってカラ

カラになった口へと流し込む。その私の顔を、ホッとした表情で

後輩が見ていた。「なに?私の顔に何かついてるの?」「あ、い

いえ。遥さんのそのホッとした表情って、本当に優しい顔ですよ

ね。仕事をしている時には決して見せないもの。」私はふっと笑

って見せたけど、仕事をしている時の自分の姿を想像したら、な

んだか悲しく思えて辛くなってしまった。「遥さん、今度の日曜

日空いてません?外は寒いけど、たまには外に出て歩くのも良い

もんですよ。落ち葉を踏みしめて歩くと、気分もすっきりするか

も知れませんし」「おや、それはデートの申し込みかい?」「ま

たそんな意地悪な事を...まぁ、そう受け取ってくれても良いで

すけどね」「う〜ん、どうしようかな...」土日はいつも暇にし

てる。家庭のある彼を連れ出す事は出来ないし、家庭サービスを

している彼の事を考えると、内心穏やかではいられなかったりし

て、土日は好きじゃない。「うん、そうね。じゃ〜そのデートの

申し込みを受理しましょう」「アハハ、そうこなくっちゃ!」ホ

ンの軽い気持ちからデートの誘いに乗った。

 夜、取引先の彼にあって、美味しいイタリアンをご馳走になり

つつ、日曜日の事を考えていた。「おい、遥。遥?」「あ、ごめ

んなさい、なに?」「今日の君、なんだか変だよ。さっきから僕

の話しにあいずちは打ってはくれるけど、心ここにあらずって感

じだ。」「アハハ、そんな事はないわよ。ちゃんと聞いている

わ。何を心配しているのよ、おかしな人ね。」そう言いつつも、

年上の彼に心を見透かされているような気になってしまった。

「じゃぁ...行こうか」「え?あ...うん」ホテルの部屋の鍵を握

る彼の手の中でカチンと音がした。その音を聞くといつも頭に浮

かぶ事がある。彼は私を本当に愛しているのだろうか...。今の

状態を変えようとは思っていないのだろうか...。それは愛想の

ない音のせい?ううん、きっとそうじゃない。その音で現実に引

き戻されてしまうからだろう。その愛想のない音に...。

 彼の愛撫はいつも優しく、包み込んでくれるような温もりがあ

る。別れられないのはこの温もりが心地よいからだろうか。気だ

るい余韻もそこそこに部屋を後にする。ホテルのドアを閉めるそ

の音が、また私を現実に引き戻す。もう少し余韻に浸っていたか

ったのに...。濃い藍色の空。都会の夜は眠らない。所々にクリ

スマスのイルミネーションが点灯している。まるで夢の中のよう

な光りで。

 ホンの弾みで約束した日曜日までの出来事を、私はほとんど覚

えていない。どんな毎日を送って、どんな仕事をしたのかさえも

思い出せないくらいに...。でも、心がほんのり温かくなってい

たのだけは解っていた。もう忘れかけていた感覚が、確かに今私

の心に蘇って来ている。そう感じつつ、約束の場所へと小走りで

向った。南に向う駅のホームの柱に、後輩の滝川君が小さな本を

読みながら待っていてくれた。「た〜き〜が〜わ〜」私は彼の顔

を覗き込むようにして呼んだ。その事が自分でもおかしくて、笑

ってしまった。まるで子供じゃない、これじゃ...。不意に呼ばれ

た後輩は驚いたように目を丸くして、大急ぎで本をズボンの後ポ

ケットに仕舞い込み「遥さん、驚かさないで下さいよ〜もう〜」

と、少しバツの悪そうな笑顔で笑った。長嶺では決して見る事は

出来ないような笑顔。それがなんとも新鮮に感じてホッとする。

長嶺と会っている時は、周りの視線も気になり、自分と言うもの

を出来るだけ崩さず、いつも背筋に鉄を入れて座っているような

感じ。取引先の社長...その関係もあって、いつ誰に見られても

いい訳が出来る状態にして置かねばと思う気持ちもあるし。だか

らまるで少女のように声を掛けた自分がおかしくて仕方がない。

「ね、今日はどこへ連れて行ってくれる訳?」「え?言いません

でしたっけ?え?じゃ〜どこ行きの切符を買ったんですか?」

「バカね〜、今はカードと言う便利なのがあるじゃない。で、ど

こへ行くか知らないけど、取り合えずここに到着」聞かなかった

自分の詰めの甘さ...仕事だったら大変だっただろうけど、今は

仕事じゃないから、とてもリラックスしている。別にどこでも良

かった。家に一人で居なくても良いのがとても嬉しかったから。

「で、王子様はどこへエスコートしてくれるのかしら?」「今日

はとてもお天気が良いので、海の見える公園がいいかな〜ってね

。あ、電車が来ますよ、白線の内側でお待ち下さい」まるでアナ

ウンスのように言う滝川に、ゲラゲラと声を立てて笑ってしまっ

た。久しぶりだな〜、声を出して笑うなんて...。そんな自分を

再確認するかのように、1歩、1歩と踏みしめて電車に乗った。

明るい色の電車が心の弾みを倍増してくれる。些細な事だけど、

その些細な事がとても嬉しいと思える。

 公園のある駅までの間、滝川は私を色々な話しで笑わせてくれ

て、私もその話しに素直に笑っていた。公園を赤や黄色で彩って

いたであろう葉っぱも、今はもう散ってしまって、煉瓦の舗道を

掃き残しの枯葉が残るだけになっている。滝川はその一枚一枚を

わざと踏んで見せた。するとカシャ、コショと乾いた音がした。

その音を聞くと、なんだか心がウキウキして来て、私も滝川の後

ろから彼の踏んだ後の枯葉を踏んで見る。一枚、一枚...。「な

んだ〜、音が鳴らないじゃないよ〜!」「そりゃダメですよ、僕

がもう踏んでペッシャンコになってるから音なんてでやしません

って。ほら、あそこのを踏んでみてください」私は言われるまま

に枯葉を踏んでみた。「おおーー鳴ったわ!枯葉一枚ゲッチュ」

「遥さん、その笑顔ですよ。その笑顔を忘れちゃダメです。殺伐

とした日々なのは解るけど、その笑顔は遥さんの良さなんです。

それを忘れてしまっては心まで殺伐としてしまうんですよ。それ

を言いたくてここまでエスコートをさせて頂きました」「まぁ、

生意気言ってくれるわね」そう言いつつプイッとふくれて見せる

。でも、内心は決して怒っている訳じゃなく、滝川の優しさが嬉

しくて仕方がなかったが、その内心を知られたくないからあえて

ふくれて見せてしまった。「ごめんね、滝川...」心でそっと呟

く私だった。「遥さん、もう少し歩くと素敵なレストランがある

んですよ。そろそろお腹が減りませんか?」「うん、じゃぁ今

日の昼食はそこに決めましょう」1歩先を歩く滝川の後ポケット

の膨らみが気になる。どんな本を読んでいたんだろう...。そっ

と近づき、その膨らみから本を抜き取った時、滝川が慌てた様子

だったので、隠すように滝川を背にして開いて見た。三角に折ら

れたそのページには、この公園の案内が書かれていた。「いやだ

な〜遥さん。折角内緒にしていたアンチョコを取り出しちゃうん

だもんな〜。来た事がないのがバレバレじゃん」そう言いつつ頭

に手をやる滝川。本当にバツが悪そうにしていた。悪いことをし

てしまったかな...。「僕の秘密をバラしたから、その罰として

今日の昼食は遥さんの奢り!!いいですよね」屈託のない滝川の

笑顔を見て「はいはい、飛びきり美味しい昼食をご馳走しますか

ね」と言い終わる前に走り出した私。「こら〜ずるい〜」二人で

走った。煉瓦の葉っぱも遠慮がちに横の芝生に飛ばされて行く。

公園内のレストラン。煉瓦の舗道と同じ色の建物。期待はしてい

なかったけれど、思っていたよりも美味しいその料理を食べなが

らゆっくりと過ごせている時間がとても愛しく思えて、話しが途

切れてしまわないように、私も色々話しを出していた。少しでも

今のこの時間が長く続くようにと...。

「遥さん...長嶺さんと付き合ってるの?」「え?ど・どうして

?そんな事ないわよ、何か勘違いしてるんじゃない?」「そうか

な〜。長嶺さんから電話が入ると、なんかあまり愛想が良くない

って言うか、そっけないって言うか...それが却って不自然なんだ

よな...」ドキッとして、食べていたブロッコリーの欠片をゴクリ

と呑み込んでしまって、慌ててお水を流し込んだ。その様子を黙

って見ていた滝川が「図星だね。遥さん、解りやすい性格だよ」

と。私は返事に困ってしまって、窓の外に顔を向け、木々の間か

ら見える寒そうな海を眺めた。「あのさぁ〜それって良くないで

すよ。僕が言えた筋のもんじゃないけどね。あ、長嶺さんの性格

とかって言う訳じゃないですよ、彼の家庭の事も度外視してね。

遥さん...だってちっとも楽しそうに見えないんだもの。それって

良い恋愛って言わないと思う。」「ほっといてよ!7歳も年下の

君に言われたくないわ、そんな事。」滝川の言った言葉が胸に突

き刺さる。「まぁ〜可愛らしいわね、このプチケーキ。ね、食べ

よう、食べよう」私は話しをそらしたくて、運ばれたばかりのデ

ザートを無邪気に口に入れた。「美味しい〜。当りだね、このお

店。素敵なお店を見つけてくれてありがと」「でしょ?やっぱり

アンチョコで調べた甲斐がありましたよ」と、滝川がそれ以上突

っ込んで来なかった事にありがたいような、寂しいような複雑な

気分でデザートを食べた。

 明くる朝、またいつものように満員電車に揺られて会社に行っ

たが、珍しく自分の気持ちが明るく感じた。それは空の色と比例

して、いつもの灰色の空が、心なしか青く見えたせいなのかも知

れないと思いつつ無機質なビルに飲まれて行った。「おはようご

ざいます」「おはよう」これだけはいつもと変わらずで、自分の

席に着き、注文書に目をやる。コツンと机に何かが置かれた気配

を感じ左斜め前に目をやると、コーヒーが。「あ、ビックリする

じゃないの。でも、ありがとう。丁度飲みたいって思っていた所

だよ、ウエイター君」「遥さん、何かよい事があったんですか?

今日の遥さん、顔が明るいですよ〜」「バカ...解ってるくせに。

昨日はありがと。お蔭で久しぶりに楽しい一日だったわ」と、小

声でささやいた。照れくさくて滝川の顔は見られなかったけど。

「よかった...明るい顔になってて。」と、彼も小声でささやいた

。「さ〜今週も頑張りましょう。ね、遥さん」と、今度は少し大

きな声で言った滝川もまた明るい笑顔だった。

 「遥さん、長峰さんから電話」滝川がぶっきらぼうに告げた。

「あ、はい、ありがと」「もしもし...」「あ、遥。この間なんだ

か変だったから電話してみたんだ。どう?体調でも悪い?」「あ

、いいえ大丈夫です、ありがとうございます。まだその件は処理

出来ていないんです。また伺っても宜しいでしょうか?」「そう

か...何か話したい事があるんだね。明晩、いつもの所で待ってる

。」電話を置いた時の音...やっぱり嫌いだな...。ふと斜め前を

見たら滝川が真面目な顔してこっちを見ていた。私は愛想笑いを

ひとつしてまた書類に目をやった。その後の滝川の顔は知らない



 次の日の夜。いつものホテルのレストランで彼を待つ。コップ

に入っているお水をもうすっかり飲んでしまって、氷だけになっ

ているのを眺めていたら「いらっしゃいませ」の声と共に彼がお

店の中に入ってきた。ガシャリと部屋の鍵を置くその音がいつも

他人のよそよそしさを思わせる。「今日は早く仕事が終ったみた

いだね。随分待たせたんじゃない?コップのお水、催促しようか

?」「相変わらず一瞬にして全てを見抜いてしまうその洞察力に

は敬意を払うわ」と苦笑してしまった。「なんだ、心配して損を

したよ。元気そうじゃないか。で、なに?今日の議題は」そう言

いながら料理を注文している彼の顔は、少し年を感じさせた。3

年...高校生ならもう卒業だわねと、心の中で呟いた。上手い具合

にウエイターが新しいお水の入ったコップを置いてくれた。その

タイミングが絶妙だったので思わず「ありがとう、ウェイター君

」と言ってしまった。「なんだよ、そのウェイター君って」「あ

、ううん、なんでもない。独り言よ、独り言...ねぇ、会社の営

業はどう?上手く行ってるの?」私は何を言ってるんだろう。会

社の話しを聞きたんじゃないのに。機械的に運ばれて来る料理を

食べながら心は少しうわの空。気がつけば頷いているだけの私。

「ねぇ...私の事、どう思っているの?」「うん?そうだな〜、ど

う言えばいいんだろう。僕としては今の状態がベストで、とても

居心地がいい部屋って感じかな〜。来る度にリラックス出来る。

こんなんじゃ答えになってないかい?」「そこに愛情はあるの?」

「勿論あるさ。でも、燃え上がるような恋心じゃないかも知れな

い。正直言って、今の現状を変えたくないんだ。君を愛していな

いなんて事はないよ、それだけは言える。でも...」「でもなに?

」「う〜ん、上手く表現出来ないけど、今の現状を変えるだけの

愛ではないかも知れない。ごめんね。あやふやな事を言ってるの

は良く解っている。でも、家族は僕にとってまた別物だって事。」

「そうね...それに嫉妬してどうこうしようなんて思うほど私も若

くないわ。正直に言ってくれてありがとう。正直に言ってくれな

いかもと思っていたから、嬉しかったわ」手持ち無沙汰な感じが

して、コップに付いた水滴をひとつひとつ落としてみる。ひんや

りした水滴の水が、指を通して心の中に染み込んでくるように、

冷えて行くのが解って、どうしようもない波立ちを押さえ切れな

くなって来た。それを表面に出してどうする?泣いて喚いて「あ

なたを失いたくない!」と子供みたいに言ってもダメな事を知っ

ているわ、この年になればね。だから平静を装って、水滴の無く

なったコップの水を口に含む。言いたかった言葉が詰って熱くな

っている口の中の温度を、イッキに下げてくれるような水をゴク

リと飲み込む。言わなくて良かった。飲み込んで良かった...言え

ば自分がもっと惨めになっていたよねと、自分に言い聞かせた。

「そろそろ行こうか...」「ごめんなさい...今日は帰りたいの。

折角お部屋をキープしてれたのに、我侭言ってごめんなさい」「

そっか...いや、いいんだよ。たまにはそれも良いかも知れない。

それは君の自由なんだから、気にする事ないよ。また今度と言う

日がない訳じゃないんだから、ね、そうだろ?」「ええ...」お

店の前で別れた。同じ方角へ帰るのに、一緒に歩けない悲しい関

係。お店を出た瞬間、もう二人の間には繋がりは見えない。わざ

と足早に人ごみの中へと身を委ねて行く自分が辛い。「今の現状

を変えるだけの愛ではないかも知れない。」さっきのお店で聞い

た彼の言葉が繰り返し私を打ちのめしてくる。やり場のない気持

ち...独りでは居たくない。助けて...誰か助けて...。「はい、も

しもし...」「あ、滝川?私、遥...ねぇ、何でもいいから話しを

してくれない?お願い、何か話しをして...」「遥さん?なに?ど

うしたんですか?ねぇ、今どこ?」「会社の最寄駅の前...」「そ

こから動かないで下さいね!僕まだ会社に居るから、すぐにそっ

ちへ行きます。いいですか、動かないで下さいよ!!」そう告げ

たかと思ったら発信音に変わった。息を切らせて滝川が走って来

た。私の肩を両手でしっかり掴んで、息を整えるのに必死になっ

ている。その姿を見て思わず「たきがわ〜〜」って、彼の胸で泣

いてしまった。周囲の人の反応なんてもうどうでもいい。声を上

げて泣いている自分がとても愛しく思えてきて、また涙が。滝川

は黙ったまま肩を抱いてくれていた。何も聞かないで、黙って私

の肩を強く抱いてくれた。「遥さん、何も言わなくていいです。

遥さんのその涙を見れば、何があったか解ります。泣きたいだけ

泣いていいですよ。顔が見られないように、僕が遥さんの顔を隠

してあげるから。それで気が済むのなら、泣けばいいよ」一体ど

のくらい泣いていたんだろう。気が付けば、流す涙さえ無くなっ

てしまっていた。いや違う...無くなってしまったんじゃない。私

の流す涙を滝川が受けとめてくれていたんだ。静かに、ひとつひ

とつ受けとめてくれていたんだ。今までどうして気がつかなかっ

たんだろう。いつもそうだった。グッドタイミングで出てくるコ

ーヒー、疲れている心を癒すデート...彼はいつもいつもそっと

私を陰で支えてくれていたんだ。なのに私は後輩としてでしか見

てあげられなくて、冗談で突っぱねるような言葉しか言えなかっ

た...。「遥さん、どう?気が済みましたか?僕、鞄を社に置い

て来てるんですよ。取って来ますから待っててくれません?あの

スタンドで熱いコーヒーを飲んで温まりながら待ってて。すぐに

戻ってきますから。ね、待ってて下さいね。」彼はそう言い残し

て私を独りにした。でも、今の私は独りでも悲しくない。「熱い

コーヒー...あなたって、またウェイター君やってる感じね。」

私は独り言を呟いてコーヒーを注文した。お店に流れている曲は

「Happy X'mas」もうすぐクリスマス...。今年のクリスマスは独

りじゃない。きっと...Happy X'mas...素敵なウェイター君と。


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   平成16年11月14日 作:P−SAPHIRE



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