〜ふき〜

 早春の飛鳥を歩いていると、畑の土手に淡い黄緑色の折り重ねられた花の蕾のような植物を目にします。それは、蕗(フキ)の花茎で<蕗の薹(フキノトウ)>です。葉よりも早く花茎を伸ばして、淡い黄色の花を咲かせ、やがてタンポポのような綿毛をつけた種子が風に飛ばされて行きます。花が終わると、フキらしい丸い葉が出て来ます。この葉茎の部分が通常売られているフキです。フキは古くから日本に自生していたとされますが、万葉集には詠まれていません。現在フキは<蕗>と書きますが、古代は<布布木(フフキ)>と書かれています。長屋王家から出土した木簡の中には、片岡(奈良県北葛城郡北西部一帯であろうと推測)の御園から長屋王家へ、フキとアザミが一束二文で交易進上(こうえきしんじょう:買い上げて進上)されたと記されています。どちらも同じ一束二文と言うことなのですが、束の周が違います。フキは二尺束、アザミは十二尺束。と言うことは、アザミよりもフキは小さな束で二文だと言うことなので、フキはアザミよりも6倍の値段だった事がわかります。意外と効果だったんですね・・・。長屋王の時代はまだ山野で採っていたようですが、平安時代になると菜園で活発に栽培されています。「和名抄:平安中期」には「フキは煮て食す」と記載されていて、すでに今と同じような調理方法で食べられていた事がわかります。

 フキの語源ですが、はっきりわかっていませんが、想像されるものとして数例ご紹介したいと思います。

 1.用便の後、オシリを拭くのに利用した(トイレットペーパー)から「拭き → フキ」
 2.フキの葉は大きく、少しの風でもなびくので「風吹き(ふふき)→ フキ」
 3.冬に黄色い花を咲かせるから「冬黄(ふゆき)→ フキ」

 私としては、2番じゃないかと思うのですが、あなたはどう思われますか?(笑)

 私とフキノトウとの出会いは、決して良いものではありませんでした。伯母が雪が残る畑の土手から一握りのフキノトウを採って来てお味噌汁の具にしてくれました。お味噌の香りと共に草っぽい香りが相俟ってとても美味しそうに思いました。が、しかし・・・その苦味ときたら、小さな子供にはとても食べられないくらいでした。胃薬か?と思うほどの苦味なのに、伯母はとても懐かしそうに食べていました。東北生まれの伯母にすれば、故郷を思い出させる味だったのでしょう。でもその苦味は私にとって「二度と口にしたくない山菜」として頭に焼きつきました。それから約30年の年月、私は全くフキノトウを口にせず過ごしましたが、両槻会でもお世話になっている橿原の中華料理屋(花林)で、フキノトウの天ぷらを食べた瞬間、すごいカルチャーショックを受けました。なぜなら、そのフキノトウがとてつもなく美味しかったからです。「30年間を戻してくれーー!!」と叫びたいくらいでした。(笑)確かに苦味はあります。ありますが、スッキリした一瞬の苦味。それはツクシのような感じで、決して嫌な苦味ではありませんでした。モチモチっとした食感・・・それ以降私の早春の楽しみとなりました。

 フキノトウを天ぷらや煮物、味噌汁の具などに利用するには、一つのコツがあります。それは、花が咲ききっていないまだ蕾が固いぐらいの物を採ること。ただそれだけです。小さくても蕗の香りがします。さっと洗って土を流して水気を拭きとり、普通の天ぷらと同じように油で揚げて、パラッと塩を振って召し上がって下さい。早春のほろっとした苦味とモチモチした食感がご馳走になります。

 でも、フキノトウを見つけても花がさいてしまっていた・・・って事が多いんです。蕾の時期にはなかなか出会えません。ご心配なく!!とっておきの料理方法があります。<フキ味噌>にするんです。これは温かいご飯につけて食べても、田楽につけても、フキの風味が楽しめます。

<フキ味噌の作り方>
*フキノトウ・・・・花が咲いててもOK!で、大きいのを5本ほど
*お酢・・・・・・・小さじ1
*お味噌・・・・・・大さじ1強
*お酒・・・・・・・小さじ2
*お砂糖・・・・・・大さじ1(これは加減してね)

1.フキノトウを綺麗に洗って、お湯にお酢を入れてサッと茹で、すぐに真水につけます
2.お水の色がうすい緑になりますので、3度水を替えます。
3.フキノトウを硬く絞って、みじん切りにします。
4.フライパンを熱く熱してからフキノトウを入れてカラ炒りし
  お味噌、お酒、お砂糖を加えて良く混ざるまで良く練り混ぜ出来上がり。

サラダ油やごま油を利用される方もおられますが、私は油を使わずにお酒で練るような感じにしました。あっさりさっぱりしています。お味噌の塩加減により、お砂糖を加減して下さいね。少しずつ入れながら味を確かめるのが良いと思います。

 先日、両槻会の定例会で飛鳥を歩きましたが、まだ出ていませんでした。どうやらこれから出てくるようです。フキノトウを見つけたら、これらの話を思い出して頂けると幸いです。

HOME