<蓮の葉、芋の葉>

 お盆休み、みなさんはいかがお過ごしでしたでしょうか?我が家のお盆は13日のお迎え火から始まり、15日の送り火で終わりました。仏様に短いこの世の時間をゆっくり楽しんで頂くため、期間中お仏壇の前に盆棚を設え、三度三度炊きたてのご飯と一汁一菜、そして温かいお茶をお供えします。13日のお迎えには<迎え団子>平べったく作った黄な粉餅をお供えします。そして、送る時は<送り団子>白いままのお餅と<白蒸し:しらむし>もち米と黒豆を蒸して、蓮の葉に包んでお土産としてお供えします。実はこの白蒸しを乗せる蓮の葉は古代からお皿の役割を持っていました。これは日本だけではなく、中国にはおこわを蓮の葉で包んで蒸した<荷葉飯:かようはん>と言う物があります。蓮の葉に包むことにより、蓮の良い香りがおこわに移り芳しいご飯になります。<荷葉(かよう)とは蓮の葉の意味>
 
 その蓮の葉ですが、いつ頃から使われるようになったのか・・・実は、万葉集にも何首か掲載されていて、その頃から蓮は良く知られた植物だった事が伺えます。その中に面白い歌を作ると言うので何度かご登場頂いている長意吉麻呂さんも、蓮の葉を入れて歌を詠んでおられますのでご紹介したいと思います。

 蓮葉(はちすば)は かくこそあるもの 意吉麻呂(おきまろ)が
   家なるものは 芋(うも)の葉にあらし  巻16-3826

 万葉時代、宴席で出されるお料理は、蓮の葉に乗せて出すのが高級官僚の慣わしだったようですが、下級官僚たちには高級すぎて利用出来なかったので、よく似た芋の葉を利用したと言う歌です。現代では<芋>と言えばジャガイモやサツマイモを思い浮かばれるでしょうが、ジャガイモもサツマイモも1600年頃の伝来で、万葉時代の<芋>とは稲作より早く伝来した宇毛(ウモ:里芋)か日本の野生種である夜万乃伊毛(やまのいも:山芋)の事になります。山芋の葉は人差し指ぐらいのハート型をしていますので、とてもじゃないけれどお料理は乗りません。従って、里芋のことを指します。蓮の葉はやや円形に近く、里芋はやや細長いハート型をしていますが、とても良く似た柔らかさを持っています。家芋(イエツイモ)とも呼ばれる里芋は、結構どこでも良く目についたであろう事から、貴重で高級だった蓮と対照にどこにでもある里芋の葉を使ったお料理は粋(いき)じゃないと言われたそうです。その頃から粋じゃない人を「イモ」と表現していたらしいと、廣野卓氏は「食の万葉集」の中で書いておられます。

 現在も蓮の葉は高級品で、特にお盆の頃はとてもお高いですが、里芋の葉を利用することはほとんどなくなりました。しかしながら、里芋は今も昔も身近な食材であり、茎はズイキとしても利用され(一部利用できない種もある)乾燥させれば長期保存が可能で、カリウム、マンガン、カルシウムが豊富に含まれています。また、干すことによりそれらを凝縮させる事が出来るとされています。戻して煮た物はお乳の出や子宮の戻りも良くすると言われ、産後すぐから良く食べさせられました。(笑)高血圧の改善、筋肉機能や心臓機能を調節する役目も担っていますので、季節が夏から秋に気温の変化がある今の時期にはどんどん取り入れたいものですね。


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