*- 小説:地獄長屋に陽がのぼる -*
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その6:ぼんぼんの恋〜中編〜

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 「おーーい!みんな、出てきてや〜」

なんや、なんやと長屋の連中が表に飛び出して来よった。おかん連中まで

飛び出して、長屋の前はワイワイガヤガヤ!何事やと口々に話すもんやか

ら、そらも〜えらい騒ぎ。そのうち、キーやんが待ちきれんと叫びよった。

 「はっちゃん、早よ言うてくれなんだら、この場が収拾つかへんで」

 「あぁ、解った解った。あのな、大家さんちのぼんぼん、銭湯の萌ちゃ

 んに一目ボレやがな。こんなめでたいことないやろ。今まで浮いた話し

 ひとつあれへんなんだぼんぼんやさかいなぁ。ここは一つ、長屋総出で
 
 協力したろうやないかと思てな。どや?いっちょかみせーへんか?」

 「はっちゃん・・・あの・・・」

 「あ、ぼんぼんは黙ってて。わしらに任せておいたらええんです。亀の

 甲より年の功!亀の頭よりイワシの頭ってな。」

 「いや、違う・・・あの・・・」

 「せやな!久しぶりにおもろい話しやないか。いっちょかみさせてもら

 おうやないか、なぁ、みんな!」

 「せや、せや、こんなおもろい・・・いやいや、めでたい事はあらへん

 。長屋の団結力を見せたろやないか。」

長屋の連中、ぼんぼんの話しもちゃんと聞かん先に、とんとん話しを進め

てしまいよった。せやけど、ぼんぼん、この時何を言いたかったんやろ。

さぁ〜それからと言うもの、長屋の連中それぞれに意見を出し合って、喋

った喋った。せやけど、どうもこう言うのに馴れてない連中ばかり。なか

なかええアイディアが出てこん。で、キーやんがええ提案をしてくれた。

 「恋愛に馴れてへん連中ばっかりで、あれやこれや言うててもあかん。

 ここはひとつ恋愛馴れしてるママに出てきてもろたらどや?」

 「せや!黒猫のママならきっとええアイディアあると思うわ」

長屋の連中が事あるごとに飲みに行くスナック黒猫のママは、ほんまさっ

ぱりした気性でそれでいて長屋の癖のある連中を束ねる役目をしてくれる

言わば、長屋の連中の世話係りのような存在。やれ花見や、やれみかん狩

りやって、いつも計画しては長屋の連中を外へ連れ出してくれる。私もマ

マの助けを借りるのがやっぱりええやろうと思った訳です。で、キーやん

に出向いてもろて、ママを呼んで来てもろた。

 「ママ、えらいすんまへんな〜、忙しいのに・・・」

 「あぁ、私ならええんよ。こんな話しはね、結構好きなんよ。来る道々

 キーやんから話しはあらかた聞いてるんだわね。私に任せてちょ。」

ママは大阪の人間やのうて、愛知の出身やさかい、ちょっと訛りが大阪弁

やない。細かいニアンスまで伝わってるんやろか。心配になる。

 「で、萌ちゃんはぼんぼんの事、知ってるだろうか?」

 「いや、さっき銭湯にわしとぼんぼんとで行った時にぼんぼんが一目ボ

  レでんねん。せやさかい、ぼんぼんの事はあんましよう知らへんと思
  
  う。」

 「なんだ〜、それなら萌ちゃんにぼんぼんを紹介しなきゃいけんがね」

 「さて、それが問題でんねんやが・・・。長屋の連中ときたら、恋愛て

  なもんは苦手やさかいな〜。で、ママに来てもろたって訳や。」

 「そんな事、どこかへ呼び出して、付き合ってくれ!って言えばいいじ

  ゃないの。簡単じゃない。アハハ」

 「どこで会う?黒猫でか?」

 「キーやん、それはダメだがね。ちょっといきなりムードありすぎ!!

  そうだ!坂の上にあるお好み屋なんていいかもね。美味しいお好み食

  べながらだったら、気持ちも楽じゃない?ね、そうしない?」

 「やっぱりママやな〜。うん、それがええわ。丁度明日あのお店定休日

  やさかいに、ちょっと午前中お店を開けてもろて、そこで待ち合わせ

  ってな具合にしましょか。みんな異議ないか?」

そらええ、そらええ、ってなもんで、みんな賛成した。で、萌ちゃんには

ママからちょっと話しをしてもろて、明日お好み焼き屋へ来てもらうよう

にした。ぼんぼんは終始俯いたまま、時々なにやら言いたそうやったけど

みんなそんなん全く気にしてなかった。明日はどうなるんやろうか。私が

蒔いた種やさかい、ちょっと気になる・・・。



☆この小説はフィクションです。登場人物その他はPの空想の世界。
くれぐれもPの日常と勘違いしないで下さいね。まぁ、日常とそんなに違いはおまへんけど☆

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