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*- 小説:地獄長屋に陽がのぼる -*
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その4:愛しのコロッケ

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  今日は芝居見物やって言うて、朝から嫁はんの安子がウキウキ上機嫌で支度して、

近所のおばはん連中連れ立って、難波まで行きよった。久しぶりにゆっくりさせても

らえそうで、こっちもウキウキしてきよんな〜。いつもやったら大の字になって昼寝

しようものなら「もう〜粗大ゴミに出したろか!ゴロゴロ寝てばっかりして!」やな

んてグチグチ言われるのが関の山やねんけど、今日は昼前からおらへん。嬉しいな〜

なにしてこましたろ。しかし・・・嫁はんはウキウキ出て行きよったのはええけど、

お昼の用意ぐらいして行けって言うねん。人を日干しにしようと思っとんのんかな。

そら嫁はんは1週間や2週間食わんでも、充分生きて行けるだけ身体に蓄えあるけど

私はそんなんあらへん。さてさて、困ったもんやな・・・。

 地獄長屋から歩いて5分ほどの所に公設市場がある。大きな平屋の中に玉子屋、花

屋、肉屋、魚屋、八百屋に駄菓子屋なんかが入っていたんやけど、近所に大型スーパ

ーが出来てしもて、公設市場も歯抜け状態になってしもた。そんな中で元気に商売し

ているのが肉屋。本業の肉は全く売れん。せやのに元気がええっちゅーのは、その肉

屋で売ってるコロッケがメチャメチャ美味いんや。お昼やおやつやって、おばはん連

中が先を争って買うて行きよる。そや、今日の昼ご飯はコロッケにしてこましたろ。

そう思って、私は手に500円玉を握ってカラコロ下駄の音も軽やかに歩き出した。

細くて短い坂を登って、駄菓子屋の横を曲がってまっすぐ行くと公設市場。油にまみ

れた鉄の大きな釜のある肉屋に着くと、もうすでに数人が並んでいた。男で並ぶのは

ちょっと恥ずかしい気もするけど、背に腹は替えられん。黙って並んで待とう。俯き

がちに待ってると肉屋のおねーちゃんが

「はっちゃん、なにする?」

「ハハハ・・・バレてるんかいな。いやな、今日はおばはんら芝居見物に行っとるさ

かいに、お昼はコロッケにしようと思てな。ここのコロッケ美味いからな〜。で、コ

ロッケ3個包んでくれるか。」

「そうかいな、はいはい、3個ね。ちょっと待ってや、熱いのん入れたげるさかい」

肉屋のおねーちゃん、昔の別嬪さんでな、なかなか愛想がええ。油にまみれた手には

年輪が覗える。ちょっと赤茶けた手をしてるのは、油焼けやろか。そんな事を思って

いる間にアツアツのコロッケが出来あがり、薄く剥いだ木の舟の上にコロッケ3個を

乗せて、緑色の薄い紙と新聞紙で包んでゴムで止めた物が出てきた。

「はっちゃん、おまっとうさん(お待ちどうさま)はい、150万両!!」

「おいおい、150万両ってかいな。ずっこけてしまうがな。はい、150万両ね。」

「まいどおおきにぃ〜♪安子ちゃんによろしゅうね〜。」

今時150万両やなんて、ほんま、ズルっとこけてしまいそうやがな。さすが昔の別嬪

さんやなと変な感心をしつつ、来た道を戻って行ったんやが、途中の駄菓子屋でまた

ぽぽにゃんに出くわした。今日はなんや元気ない・・・。

「おい、ぽぽにゃん、今日は元気ないな・・・どないしたんや」

「いや、地獄長屋のおばはん連中がいてへんさかい、今日は何にも昼ご飯がない。い

つもやったら、残飯をあっちからもこっちからも貰えるっちゅーのに、今日は三隣亡

やわ。シオシオノパ〜!」

「なんや、猫のくせに古いギャグしっとんねんな。アハハ。まぁええわ、わしのコロ

ッケ1個分けたろ。家までついといで。」

「おおーー!!公設市場のコロッケやろ!あれは美味いんや〜。うち、あれ好物!」

「なんや、なんや、エライげんきんなやっちゃな。途端に元気になりよった。」

細くて短い坂を降りた所が地獄長屋の入り口。そこから私の家まではほんの数軒。小

さなお稲荷さんの祠の筋向いにある。お稲荷さんの百日紅の花が綺麗に咲いていて、

ちょっとお花見気分を味わって家の中へと入った。

「おっさんの家の中、初めて入らせてもろたな・・・。へ〜なんにも無い家。」

「こらこら、入れてもろてて、エライ言いぐさやな。なんにも無いさかい、鍵もかけ

んと出歩けるんや。あったら物騒で出歩けんがな。」

「アハハ、物は言いようやな、おっさん。今時鍵かけへん家なんてあらへんねんで。

地獄長屋ぐらいやわ。」

私は台所に転がっていたキャベツを、馴れない手つきで千切りにして、コロッケに付

け合わせした。そして、約束のぽぽにゃんへも1個、さっきの木の舟の上に置いて出

してやった。

ぽぽにゃんは美味そうにガツガツと食べよった。やっぱり好物やったんやな。。。

「ほな、わしも食べるわな。」

まだアツアツのホッカホカのコロッケ。じゃがいもをふかして潰し、牛の筋肉をミン

チにし、砂糖やら塩コショウやらして味をつけ、カラカラの安物のパン粉をまぶし、

豚の背油から取った油でカラリと揚げてある。普通のミンチではここまで味が出えへ

ん。筋肉のミンチをじっくり甘辛く煮て入れてあるから、あれだけの味が出よる。外

はカリッとしていて、中はほっくりホクホク。甘さと油の香ばしさで、なんとも言え

んぐらい美味しい。美味しい物を食べると、自然と顔がニンマリしてきよる。

「おっさん、気持ち悪いな〜。なんやそのしまりの無い顔は・・・。」

「おっとっと。これはわしとした事がお恥ずかしい〜。って、なんでやねん!!猫に

言われたないわ!ほっとけ!」

「ふふふ・・・図星やから怒りよるんやな。おっさんも解りやすい性格してるわ。」

なんや猫に遊ばれてるような気になってきたわ。

「お前、食べたらいんでか(帰ってくれるか)わし、おばはんがいてない間にちょっ

と昼寝したいねん。大の字になって、今日はゆっくり昼寝や。邪魔すんなよ。」

「なんや小さい喜びやな〜。まぁゆっくり寝ておくれ。早よ寝なおばはん帰って来よ

んで。ほな、ごっそうさん(ごちそうさま)。」

ぽぽにゃんは右手をペロリと舐めて、走って表へ出て行きよった。あ〜なんやホッと

したな。お腹が大きいなって、ふあぁ〜眠とうなってきたわ。ちょっと奥の間で大の

字になって寝てこましたろ。おやすみやす。。。


☆この小説はフィクションです。登場人物その他はPの空想の世界。
くれぐれもPの日常と勘違いしないで下さいね。まぁ、日常とそんなに違いはおまへんけど☆

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